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イタリアの観光情報 ― サクロ・モンテ巡礼の旅
サクロ・モンテで見られるキリストの生涯
 



サクロ・モンテの目的が、宗教改革に対抗してカトリック信仰を強固にすることにあったことから、サクロ・モンテで見られるキリストの物語は純粋に新約聖書の物語をそのまま反映しているものではありません。サクロ・モンテで描かれている物語の傾向として、大きく分けると、ロザリオの祈りで代表される聖母マリア信仰、キリスト受難、三位一体の3つに分かれていますが、いずれも、最終的にはカトリック思想の根本である三位一体を強調する事を目的としています。そのためには、聖母マリアの無原罪・被昇天、キリストの復活・昇天が物語のメインに置かれています。唯一、オルタのサクロ・モンテだけは、イタリアの聖人でもある聖フランチェスコの生涯の物語が描かれています。

 

それでは、サクロ・モンテで見られる新約聖書の正典と呼ばれている福音書及びその後のキリスト教布教の歴史の中で必要であった補充を加えたキリストの生涯とは何か、主な出来事をまとめて見ました。

1.アダムとイヴの原罪(旧約聖書からのもの)

2.聖母マリア誕生

3.聖母マリアの成長(天使に育てられた)

4.処女受胎

5.受胎告知

6.キリストの降誕

7.三博士礼拝

8.羊飼いの祈り

9.神殿奉献

10.       エジプトへの出国

11.      無実の子供たちの虐殺

12.       キリストの少年時代

13.       洗礼者ヨハネによる受洗

14.       荒野の誘惑

15.       山上の説教

16.       ユダヤ各地での布教

17.       キリストの変容

18.       エルサレムでの演説

19.       最後の晩餐

20.       逮捕

21.       裁判(茨の冠)

22.       十字架刑

23.       ピエタ

24.       キリストの復活

25.       キリストの昇天

26.       聖霊の降臨

27.       聖母被昇天

28.       天国での聖母マリアの戴冠


上記の中で、無原罪懐胎を含む聖母マリアの生涯やキリストの幼年時代に起きた多くの事象や奇跡については、正典にある福音書には含まれていませんが、外典福音書に含まれていてキリスト教徒の間では伝承として伝わっていたものです。但し、三位一体の説明には欠かせないものでありますので、いつの間にか、カトリックの教えの一部となっています。また、聖母マリアの被昇天や戴冠も正典にはなく後日加えられたものです。

 

9ヶ所のサクロ・モンテを見るとわかるように、聖母マリア信仰に関連するサクロ・モンテが多いのが直ぐにわかります。もともとあった聖域に聖母マリアに関連しているところが多いためであることが最大の理由ですが、同時に、三位一体の説明を完成させるためには、聖母マリアの存在は欠かせないものであることも大事な理由です。サクロ・モンテに限らず、教会の数にしても、キリストよりも聖母マリアのほうが多いのですから、カトリックとは、キリスト教とは言わずに、聖母マリア信仰教とでも言ったほうが良いのではないかと考えるのは私だけでは無いと思います。でも、キリスト教ではない人たちにしてみると、聖母マリアのほうが、キリスト受難よりもずっと入りやすく理解しやすいと思います。それが、聖母マリア信仰の源なのだと思います。もともと、聖母マリアに関連した聖域は、地域信仰と聖母マリアとが結びついてできたものと言われています。即ち、大昔からあった大地母神信仰が、キリスト教の影響で聖母マリア信仰と変っていったのでしょう。オローパの「黒いマドンナ」を見ると、それが正しい説であることを感じます。

 

それはともかくとして、サクロ・モンテを訪ねるときには、最低限の知識として、上記のキリストの生涯は頭に入れておいたほうが良いと思います。もちろん、キリスト教に改宗する必要はありませんが、何の知識もなく見ていると、単なる菊人形を見ているに過ぎません。それも、かなり風化して傷だらけの菊人形ですから、何の感動もなく、何で、こんなものが世界遺産に登録されたのだろうと思うだけになってしまうと思います。


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