イタリアふれあい待ち歩き |
イタリア観光のための知識 ― キリスト教と聖母マリア
アヴェ・マリアを聞くと、心が落ち着き神聖な気持ちになり、誰もが平和な世界への思いで高まり、しかもキリスト教徒の気分になってしまうのは、私だけではないと思います。それこそ、“ロザリオの祈り”を捧げたくなります。聖母マリアが、“母であること”と“永遠の処女”は宗教を超えた偉大さがあります。これは、上記の聖母マリア信仰の起源にあるとおり、キリスト教信仰が始まる以前から不変なものなのです。従って、聖母マリアに関しては、キリスト教を超えたものであることが、聖母マリア信仰の原点といえるでしょう。 イタリアで聖母マリアを著わす言葉を集めてみました。 Santa
Maria(教会) Biata
Vergine(サクロ・モンテ) Maria
Vergine又はVergine
Maria(一般) Vergine又はSt.
Vergine(絵画) Maria(絵画) Madonna(教会) Madonnina(ミラノのドゥオモ) Nostra
Signora(教会)即ち、“我々の夫人”
三位一体と聖母マリアの話までしてしまいましたので、ここで核心に触れたいと思います。キリストの物語(新約聖書の物語)です。いったいどこまでが本当の話で、どこからが作り話なのか、を探るとわけがわからなくなってしまいます。全部が作り話なのかもしれません。それでは、面白くありませんので、ここでは、どこまでが、昔からの言い伝えで、どこからが後になってカトリック教会で加えたものなのかを考えたいと思います。特に、聖母マリアの記述がキーとなります。 昔からの言い伝えは、即ち、聖書です。聖書には旧約聖書と新約聖書があり、新約聖書には4つの福音書が正典として含まれています。マルコ、マタイ、ルカとヨハネの福音書です。その他に、教会では聖書では正典としては認めていません(これも教会の都合で決めたもの)が、外典と呼ばれている正典とほぼ同時代に書かれた福音書がありますが、これについては次の章で触れます。 正典から見てみますと、4つの中で一番古いのはマルコの福音書と言われています。マタイとルカの福音書は、マルコの福音書ともう一つの今はない文書を基に作られたとも言われています。ヨハネの福音書が最後に作られました。最初の福音書であるマルコの福音書は、この中では一番短いもので、ガリラヤでの洗礼者ヨハネによるキリストの受洗から始まり復活の直後にガリラヤで弟子達と会うことをマグダラのマリアに伝えたところで終わっています。マグダラのマリアがそれを弟子達に伝えたかどうかがはっきりとしないため続きがあるのでは無いかとも言われています。 更に、もともと男尊女卑の元祖であったカトリック教会が、中世において、これほどまでに聖母マリアを持ち上げなくてはいけなかった理由は、前にもちょっと触れましたが、キリスト教の布教の為の妥協と中世の宗教改革の流れを止めることにあったのです。宗教改革とは、キリスト教は原則に戻りもっと聖書に忠実になるべきとの考えから出発していますので、カトリックに比べると聖母マリアの存在を軽視しがちです。 サクロ・モンテは、その複数形のサクリ・モンティとして、2003年に世界遺産に登録されています。世界遺産に登録されたのは全部で9つのサクロ・モンテです。そこには、新約聖書の物語がフレスコ画と陶磁(テラコッタ)で出来た彫像によって見事に表現されている礼拝堂がその事象の順番に並べられていて、それを巡礼する事で新約聖書の物語を再認識できるようになっています。 もともと、イスラム勢力によって支配されていて巡礼に行く事も出来なかったエルサレムを模して、キリスト教徒の巡礼地として作られたサクロ・モンテですが、途中から宗教改革の流れを止めるべく方針に変わってしまいました。その今残っている9つのサクロ・モンテのうち、5つが聖母マリアをメインにおいていることからも、この時期に、聖母マリアを持ち上げることがカトリックにとって如何に重要であったかが証明されています。
1.
アダムとイヴの原罪(旧約聖書からのもの) 2.
処女受胎(マタイ・ルカの福音書) 3.
受胎告知(マタイ・ルカの福音書) 4.
三博士礼拝(マタイ・ルカの福音書) 5.
羊飼いの祈り(マタイ・ルカの福音書) 6.
キリストの降誕(マタイ・ルカの福音書) 7.
神殿奉献(マタイ・ルカの福音書) 8.
エジプトへの出国(マタイ・ルカの福音書) 9.
無実の子供たちの虐殺(マタイ・ルカの福音書) 10.
キリストの少年時代(マタイ・ルカの福音書) 11.
洗礼者ヨハネによる受洗(全福音書) 12.
荒野の誘惑(全福音書) 13.
山上の説教(全福音書) 14.
ユダヤ各地での布教(全福音書) 15.
キリストの変容(全福音書) 16.
エルサレムでの演説(全福音書) 17.
最後の晩餐(全福音書) 18.
逮捕(全福音書) 19.
裁判と茨の冠(全福音書) 20.
十字架刑(全福音書) 21.
ピエタ(全福音書) 22.
キリストの復活(全福音書) 23.
キリストの昇天(福音書には無い) 24.
聖霊の降臨(福音書には無い) 25.
聖母被昇天(福音書には無い) 26.
聖母マリアの戴冠(福音書には無い) 上記でわかるように、サクロ・モンテもそうですが、カトリックは、今や聖母マリアで始まり、聖母マリアで終わっています。即ち、聖母マリア信仰は、宗教改革に対抗するために、カトリック教会が作り上げたものとも考えて良いところまで来てしまったのです。もう、後戻りは出来ません。 |